自然農の畑を始めて、しばらく経ったころ。
私は、畑に生えてくる草を見て、ため息をついていました。
野菜はなかなか思うように育たないのに、草だけは元気に育つ。
抜いても抜いても生えてくるし、気がつけば野菜より草のほうが目立っている。
「こんなに草が生えるなら、野菜も同じくらい育ってくれたらいいのに」
そんなことを思いながら、せっせと草を刈っていました。
でも、あるときから、少しずつ草の見え方が変わってきました。
その草、何という名前?
自然農を始めてから、畑に生えている植物を少しずつ調べるようになりました。
それまでの私は、草を見ても、
「草」
それ以上でも、それ以下でもありませんでした。
でも、名前を知ると、同じ景色が少し違って見えてきます。
これはメヒシバ。
これはオオバコ。
これはカラスノエンドウ。
これは……?
名前がわからないものは、図鑑で調べたり、写真と見比べたりする。
すると、「雑草」というひとことで片づけていたものにも、それぞれ名前があって、それぞれ違う姿や性質を持っていることがわかってきます。
そして、もうひとつ気になり始めたことがありました。
この草、食べられるんだろうか?
野菜が育たないなら、草を食べてみよう
自然農を始めたばかりのころは、畑で野菜を収穫することが、何よりの楽しみでした。
でも、現実はなかなか思うようにはいきません。
種をまいても芽が出なかったり、芽が出ても大きくならなかったり。
せっかく育ったと思ったら、虫に食べられたり、天候に負けたり。
「畑をやっているのだから、野菜を食べたい」
そう思う一方で、畑には野菜以外の植物がたくさん育っています。
それなら、少し視点を変えてみてもいいんじゃないか。
そう思って、食べられる野草を調べ始めました。
すると、今まで「抜くもの」だと思っていた草の中に、食べられるものがたくさんあることを知りました。
春の七草として知られているものもあれば、昔から野のものとして食べられてきた植物もある。
身近なところに、こんなに食べられる植物があったのかと驚きました。
『美味しい野草図鑑』を読んでみた
そんなときに読んだのが、前田純さんの『美味しい野草図鑑』です。

この本を読んでいると、野草が単なる「食べられる草」ではなくなってきます。
どんなところに生えているのか。
いつ頃採れるのか。
どんな味がするのか。
どうやって食べるとおいしいのか。
知れば知るほど、畑や道端の景色が変わってきました。
今までなら何気なく通り過ぎていた草が、
「あ、これは食べられるかもしれない」
「これは前に見た草だ」
と、目に留まるようになったのです。
植物の名前を知るというのは、不思議なものです。
名前を知らないときには、そこに「何か」があるだけ。
でも名前を知ると、その植物が急にこちらの世界に入ってきます。
「雑草」という名前の植物はない
「雑草」というのは、植物の名前ではありません。
人間にとって、そこに生えていてほしくない植物を、まとめてそう呼んでいるだけです。
野菜を育てている畑なら、野菜の生育を邪魔する草は、確かに抜かなければならないこともあります。
だから、草を全部残せばいいとは思いません。
でも、
抜くことと、嫌うことは別なんじゃないか。
そう思うようになりました。
草にも、それぞれ名前がある。
それぞれの季節に生えてきて、それぞれの場所で暮らしている。
そして、その中には食べられるものもある。
そう考えると、「雑草」という言葉だけでは見えなかったものが、少しずつ見えてきます。
畑は、野菜だけを育てる場所じゃなかった
野菜を育てようと思って始めた畑でした。
ところが、野菜より先に、たくさんの草たちが私にいろいろなことを教えてくれました。
土のこと。
季節のこと。
植物のこと。
そして、人間が勝手につけている「これは必要」「これは不要」という線引きのこと。
以前なら、草が生えていると、
「また草が生えた」
と思っていた。
今は、
「今年もこの草が出てきたな」
と思います。
もちろん、野菜のそばで大きくなりすぎたら刈ります。
でも、刈った草を見て「邪魔なもの」とだけ思うことはなくなりました。
そこに何という植物がいて、いつ生えてきて、どんなふうに季節を過ごしているのか。
そんなことが、少し気になるようになったのです。
そして、気になり始めると、今度は食べてみたくなる。
野草を知ることは、野草を食べることにつながり、野草を食べることは、身の回りの自然をもっとよく見ることにつながっていきました。
畑を始める前には、まったく考えていなかったことです。
野菜を育てるために始めた畑で、私は「草を見る目」を育ててもらったのかもしれません。
さて、せっかく名前を知った野草たち。
次は、実際に食べてみることにしました。
最初は料理にして。
そして、あるときは、お茶にして。
その中でも意外においしかったのが、野草で作ったチャイでした。
このお話は次回に。



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