「腸内細菌」という言葉は、もう珍しくなくなりました。
腸の中にはたくさんの微生物が暮らしていて、私たちの健康や身体の働きに関わっている。
そんな話を聞いたことがある人も多いと思います。
私も、微生物について調べるようになるまでは、
「なるほど。私の身体の中には、たくさんの微生物がいるんだな」
くらいに思っていました。
ところが、あることを知って、ちょっと驚きました。
微生物は、私の身体の中だけにいるわけではない。
どうやら私たちは、身体の外でも微生物と一緒に暮らしているらしいのです。
しかも、それは単に「そこらへんに微生物がいる」という話ではありません。
人には、人それぞれの微生物の世界がある。
そして私たちは、その世界を周りの人と交換しながら暮らしている。
これを知ると、
「私って、どこまでが私なんだろう?」
という疑問が、またひとつ深くなってきます。

私たちの周りには「微生物の雲」がある
私たちは普段、目に見えるものを中心に世界を捉えています。
自分の身体。
服。
家。
家具。
植物。
土。
人。
でも、目には見えなくても、そこには無数の微生物がいます。
皮膚にも。
髪にも。
服にも。
家の中にも。
そして、私たちの身体の周りにも。
人は呼吸をし、汗をかき、皮膚から微生物を放ち、周囲の環境からも微生物を受け取っています。
そうして、自分の周囲には、その人と関係の深い微生物たちが存在する。
それをイメージすると、
人の周りには、目に見えない「微生物の雲」が漂っている
ように感じませんか?
私はこれを「微生物クラウド」と考えると、とても分かりやすいと思っています。
しかも、そのクラウドは「その人らしい」
ここが、私が一番面白いと思ったところです。
人の周囲に存在する微生物は、誰でもまったく同じというわけではありません。
皮膚の状態や生活環境、暮らしている場所、触れるものなどによって、そこにいる微生物の構成も違ってきます。
つまり、
あなたの周りの微生物クラウドと、私の周りの微生物クラウドは、少しずつ違う。
なんだか不思議ですよね。
目には見えないけれど、その人の暮らしや身体と関係した「微生物のまとまり」が、いつもその人の周囲にある。
そう考えると、
人には「目に見える身体」だけでなく、
目に見えない微生物の世界まで含めた、もうひとつの領域がある
ように思えてきます。
そして、人は微生物を交換している
さらに面白いのがここです。
私たちは、その微生物クラウドを完全に閉じているわけではありません。
人と人が一緒に過ごせば、当然、同じ空間を共有します。
触れたり、物を介したり、空気や環境を介したり。
そうやって、微生物も行き来します。
つまり、
私の微生物クラウドと、あなたの微生物クラウドが重なっていく。
家族と暮らしていれば、家族同士で微生物を共有する機会も増えます。
同じ家に住み、同じものに触れ、同じ空間で生活する。
すると、その家の中にも、その家族ならではの微生物の世界ができていく。
考えてみると、ちょっとすごい話です。
私たちは、人と会うたびに、
「こんにちは」
と挨拶するだけではなく、
目に見えない生命も少しずつ交換している。
「私」と「あなた」の境界はどこにある?
ここまで考えて、私はまた、以前の記事で考えたことを思い出しました。
腸の中には、私ではない微生物たちが暮らしている。
だから、
「私の身体=私だけ」ではない。
それだけでも十分、不思議でした。
でも、身体の外にも微生物クラウドがある。
しかも、そのクラウドは周囲の人と混ざり合い、微生物を交換している。
そうなると、
「私の身体の内側」と「身体の外側」の境界は、いったいどこなのでしょう。
皮膚?
服?
家?
それとも、私の周囲に広がる微生物クラウドまで含めて「私」なのでしょうか。
考えれば考えるほど、境界線がぼんやりしてきます。
私は「ひとり」では存在していない
私たちは、自分というものを、ひとつの独立した存在だと思いがちです。
「私は私」
「あなたはあなた」
もちろん、それは間違いではありません。
でも、微生物という視点から見ると、私たちは思っていたほど完全に独立していない。
身体の中では、たくさんの微生物と一緒に暮らしている。
身体の外では、周囲の環境から微生物を受け取り、また外へ渡している。
人と人の間でも、微生物が行き来している。
つまり私たちは、
たくさんの生命との関係の中で、「私」という存在をつくっている
のかもしれません。
家にも、畑にも、微生物クラウドがある
ここまで来ると、家や畑の見え方まで変わってきます。
私の家にも、家の環境に適応した微生物の世界がある。
畑にも、その場所の土や植物、虫、動物などと関わりながらできた微生物の世界がある。
植物の周りにも微生物がいる。
土の中にもいる。
そして、その微生物たちは完全に閉じた世界にいるわけではありません。
風が吹く。
雨が降る。
人が歩く。
動物が通る。
植物が育つ。
枯れた葉が落ちる。
生ごみを土に埋める。
そうやって、微生物も環境の中を移動し、混ざり合い、新しい関係をつくっていく。
目には見えないけれど、
そこではずっと、生命のやり取りが続いている。
「自然とつながる」ということ
「自然とつながって暮らしたい」
そんなことを、私は以前から考えていました。
でも、微生物のことを知ると、その意味が少し変わってきます。
自然とつながるというのは、
森へ行くことでも、
土に触れることでも、
植物を育てることでもある。
もちろん、それもそう。
でも、本当は私たちは、すでにずっとつながっている。
目に見えない微生物を通して、
人と人がつながり、
人と家がつながり、
人と植物がつながり、
人と土がつながっている。
その境界線を、私たちは普段ほとんど意識していないだけなのかもしれません。
私はどこまでが私?
微生物のことを知ると、世界が少し違って見えてきます。
私の身体の中には、たくさんの微生物がいる。
そして身体の外にも、私と関係した微生物のクラウドがある。
そのクラウドは、周りの人や環境と重なり合っている。
そう考えると、
「私はここまで」
と、はっきり線を引くことが難しくなってきます。
もしかすると私たちは、
境界線で区切られた「個体」ではなく、たくさんの生命とつながりながら存在するひとつの生態系
なのかもしれません。
そう考えると、
「私はどこまでが私なんだろう?」
という問いに、簡単な答えは出せなくなります。
でも、その答えの出なさが、なんだか面白い。
目には見えない微生物の世界を知ったことで、
「自分」というものが、思っていたよりずっと曖昧で、ずっと広い存在に思えてきたのです。



コメント